事業者と伴走し、IT化の敷居を下げ、信頼も構築

復興からファンづくり、地域活性へとフェーズが変化する中、2016年から開始した独自の着地型旅行商品の予約・販売サイト「みなたび」。地域の事業者をどのように巻き込み、どのような効果をもたらしているのか?運用担当者の一般社団法人南三陸町観光協会堀井あかねさんに話を伺いました。

ITとは縁遠かった担当者が、苦手意識をもつ事業者と伴走

一般社団法人南三陸町観光協会(以下、観光協会)が独自に運営する予約管理システム「みなたび」。観光協会のスタッフ堀井あかねさんはその運用担当者としてプラン開発からページの構築、システム管理、販売管理と多岐にわたる業務にあたっています。

「みなたび」担当となるまでもIT畑でキャリアを積んできたのかと思いきや、「むしろパソコンには疎いほうだったので、この業務になったときは私にできるのかな?と正直戸惑ったのを覚えています」と振り返る堀井さん。

2016年10月に「みなたび」運用担当となってから、最初に取り組んだのが、ITに対するハードルを感じる事業者を巻き込み、参画数を増やすことでした。

南三陸町では宿や体験プログラムを提供する人も高齢の方が多くいます。とくに民宿などは、大手の予約管理システムすらも利用していなく、電話やFAXでの直接予約のみの対応としているところも多いのが現状です。

「2016年にサービスを開始したものの、数件の宿泊施設しかアップされていない宿泊予約サイトは利用者にとっては魅力的ではなく、利用も延びていませんでした。たとえWebでの予約受付をこれまでやっていなかったところでも、それぞれ魅力的な特徴をもっていたので、それらをしっかりと掲載して魅力あるサイト作りをしていくことで利用も伸びると考えていました」

堀井さんがまず最初に着手したのが、インターネットに慣れていない人やスマートフォン、パソコン操作に慣れていなくても理解できるような噛み砕いたマニュアルを作成し、事業者の不安を取り除いていくことでした。それでも、紙の予約帳簿で宿泊管理をしている宿も多く、システム上で在庫管理を自分たちでやらなくてはいけないことに抵抗をもつ方もいる中、諦めることなく、粘り強く堀井さんは宿の担当者と伴走を続けます。

「最初の基本となる宿泊プランは観光協会で作成して、その後すでにあるプランを元に、新しいプランを作ってみましょうか、と声をかけていきながら操作に慣れていってもらいました。私自身がITに疎かったので、それに苦手意識をもってしまう事業者の気持ちもわかったので寄り添っていけたのかもしれません」

そうした地道な営業活動が実を結び、2016年に民宿数件から始まったサイトは大きな成長を遂げました。

現在では多くの宿泊施設がプランを掲載している

業務の効率化で、地域との対話が増加

システム構築以前は、お客さんから宿の空き情報に関する問い合わせがあれば、各宿泊施設に電話して確認をとるなどの手間がかかっていました。体験コンテンツもWebフォームを使った管理に比べれば、システムによって効率化につながり、その分、地域の事業者と対話する時間が増加。

そして何より「みなたび」運用のなかで生まれた、町内の事業者に対する継続的かつきめ細かいフォローは、観光協会と地域の担い手の信頼関係の構築に大きな効果をもたらしました。

「今では地域の人から『みなたびでこんなプログラムやってみたらどうだろう?』『こういうプランでみなたびに掲載したい』と声をかけていただけるようになりました」

みなたびの目的は、地域の隠れた魅力を商品化して、地域の人たちが地域で稼げる仕組みをつくることにあります。それは観光協会だけが一人歩きしても生まれるものではありません。みなたびをきっかけにして、地域の人と観光協会が同じ目線で未来を描けるようになる、そんなきっかけのひとつ「みなたび」はなっているのかもしれません。

「事業者の問い合わせや改善点などは開発者との専用連絡ツールがあり、私で対応できないところは専門家の力を借りてスムーズに対応することができています」

お客さんのニーズを知るマーケティングの場にも

サービス導入から利用は徐々に伸び、みなたびを利用するお客さんの傾向もみえてきたと話します。

「みなたびの利用者はキャンセル率が低い傾向にある」と堀井さん話します。大手予約サイトや自主事業のイベントではある程度のキャンセルを見込んで集客を図っていくのが通例。しかし、「南三陸に来たいと思ってくれている人が利用してくれる、みなたび経由での予約は余程のことがないとキャンセルが出にくく、受け入れ側にとっても安心材料のひとつとなっているようです。なんとなく予約するというよりは、南三陸のことが好きで、愛着を持ってくれている人が多いのかな。本当に優しいお客さんが多いんです」と目を細める堀井さん。「感激してレビューを書いてくれたり、お客さんの満足する声をみることがやりがいになっています」

プログラム予約では人気のあるコンテンツだとすぐに定員になってしまうことも。それは観光協会の想定とは少し異なっていたりすることもしばしばとあるそうです。

「お客さんのニーズを図るのにとても役に立っています。反応はすごく素直。こういうのが人気あるんだ、と驚かされるのもしばしば。それを踏まえて地域の方とともに次の商品開発に取り組むなど地域の商品のブラッシュアップをすることができていると感じます」

独自の予約・販売システムだからこそ、企画から販売、そしてフィードバックへとスムーズにつなげることができます。実際に販売しながらテストマーケティングを兼ね、より楽しめ、より稼げる地域商品を開発していくこと。そういったPDCAをスピーディーに積み重ねていくことで、一つ一つのコンテンツがより魅力あり、磨かれたものへとなっていきます。

「みなたびは、地域の人たちが、地域で稼げる仕組みづくりをお手伝いするサービス。そのため、『地域のここを光らせたい、まだまだ輝く可能性のある原石がある』そんな思いを抱えている地域であれば、サービスをうまく活用できるのではないかと思います」