クライアントが理解しておくべきこと~システム開発会社とWeb制作会社との違い

ちいプラ(地域旅行商品販売プラットフォーム)は、地域OTA(地域型OTA、地域版OTA、観光DX)を実現するためのワンストップソリューションです。オンラインでの宿泊予約とアクティビティ予約とその管理に必要な機能を網羅しています。地域の情報発信、予約、決済、データ利活用まで一気通貫にサポートします。

はじめに

ちいプラは地域OTA(地域特化型OTA)を構築できる情報システムです。かなり知名度があがってきたようで、多くの引き合いをいただいています。引き合いをくださるのは、地域の観光協会や町づくり法人のスタッフ、役場の職員だけでなく、地域創生コンサルタント、Web制作会社、CRMなどソフトウェアベンダーといった方々も含まれます。

この中で取引を避けている(=基本的にはちいプラを提供しない)会社さんがあります。もちろん、その中身によるのですが、一番警戒しているのは、Web制作会社さんです。

以下のように、お客様の不利益を顧みず、自分たちの専門分野を超えて介入しようとして、かつシステム開発会社のノウハウをただで教えてもらおうとする利己的なWeb制作会社さんが少なくない印象です。こういったWeb制作会社が地域OTA導入に関与して影響力を持っている場合、ちいプラは提供しておりません。

  • お客様が(Web制作会社に)抱いている「IT詳しい人」というイメージを崩したくない。
  • 元請けは弊社。お客様との直接のやりとりは自分たちだけにしたい
  • お客様には無知のままでいて欲しい。自分たちの仕事がなくなるのでできる限り自分たちでやりたい。
    • ただしシステムのことはわからないので詳しく教えてほしい

本記事では、これらについて背景を含めて詳しく説明しています。あわせて地域OTAを導入しようとしている方々(観光協会やDMOの業務責任者)に理解していただきたいことを記載しました。参考になれば幸いです。

背景/システム開発会社とWeb制作会社との違い

「システム開発会社」も「Web制作会社」も業界外の方にとってはどちらも「ITに詳しい人」というイメージだと思います。実際には、この2つの会社では、必要とされる知識やスキルは全く違います。以下は情報システム会社とWeb制作会社がWebサイトを構築する際にカバーしている領域を図示したものです。青い背景で塗りつぶしているのが、それぞれの会社がカバーしている範囲です。

このように全く違うことが一目瞭然です。どちらが上とか下ではなく「全く違う」のです。

家づくりにたとえると、情報システム会社は建築士かつ工務店に相当します。家を設計して、実際に施工します。つくりっぱなしではなく維持管理も担当します。Web制作会社は、つくられた家のインテリアをデザインするというイメージです。

私たち情報システム会社は、サーバーやネットワーク、基盤ソフトウェア(OS、ミドルウェア、HTTPサーバー)、アプリケーション全体をカバーしています。

Web制作会社さんがカバーしているのは、コンテンツ登録だけです。それ以外はレンタルサーバー会社が、お膳立て(インストール、通信暗号化などもろもろ)したWordpressという誰でも無償で利用できる世界的ソフトウェアと便利なプラグイン・テーマが提供しています。10年前くらいまではWEBサイト制作にはHTML/CSSの知識が必須でしたが最近はWordpressテーマやプラグインがあるので、HTML/CSSの知識がなくても洗練されたサイトを制作できます。(「だけ」という表現はネガティブなので補足すると、Web制作会社様が登録するコンテンツは、見た目が洗練されていて美しいです。これが情報システム会社にはない強みであり価値です。)

何が問題なの?棲み分けできてるじゃん

もちろん、上記の違いだけなら、何も問題はありません。棲み分け・協業が可能です。何が問題を引き起こすかというと以下のような流れです。

Web制作会社さんの多くは、あたかも「ITに詳しい会社・人」という設定でお客様に営業したり助言したりしています。

エンドユーザさんは、上述したようなWebサイトの裏側にある構成やそれぞれがカバーしている範囲の違いはわかりませんので、区別できません。

そこで、予約サイトを立ち上げようとした時に「(ITに詳しいはずの)Web制作会社さんに聞いてみよう」という発想となります。

Web制作会社さんは「Wordpressのプラグインでできるのでは?」と安請け合いしてしまいます。

予約システムや決済システムは複雑ですし、そもそもWordpressプラグインは、単独事業者向けなので、地域OTAサイトのようなプラットフォーム型の機能を実現することはできません。

で、弊社に泣きついて問い合わせてくるのですが「ITに詳しい人」「弊社が元請け。このお客さんは私のもの」みたいな立場を崩そうとしない会社があります。

こうなるとトラブル続出です。

例えば、地域OTAサイト構築の先立ってDNSレコード設定が必要(メール認証、TLS証明書、海外アクセス禁止、…等)です。ここで必要な作業をざっくりと表現すると以下のようになります。

もちろん、これを一読して「あー、はいはい。なるほどです。何度もやったことがあります。お任せください!」という人であればお任せできますが、そんな人にはお目にかかったことがありません。

地域OTAサーバー構築に先だって必要なDNSレコード設定が必要な作業

  • ドメインとサービスが稼働するサーバーとの紐づけ(Aレコード)
  • メール送信元認証のためのSPF、DKIM、MAILFROM、DMARCの設定
    • SPFはサーバ増設(IPアドレスの追加・変更)した場合に更新が必要
  • CDN関連
    • まず証明書を取得する必要があり、ドメイン認証(DNSレコード設定)が必要
    • CDN設定後、CNAME等の設定が必要
  • セキュリティ関連
    • 管理サイトは海外アクセス禁止
      • ただしTLS証明書を更新する場合は一時的に無効化する必要がある。スクリプトで自動化しているので、当該スクリプトにゾーン変更権限の付与が必要(IAMによる権限付与)
    • 他社に一時的無効化を依頼する形(非自動化)だと非効率。結局、海外アクセス禁止設定をあきらめることに
  • 地域OTAの運用メール設定でメール送受信サーバの用意・設定が必要。DNSはMXの設定が必要
    • メールアドレスがないと地域OTAシステムの設定が完了しない
    • 転送先の確認、一部は送受信可能にするなど運営法人(機構)側の体制に応じた細かな確認・設定が必要

業界外の方には、なんのことかさっぱりわからないと思いますが、Webサイト制作者さんも同じです。ただ、立場上「わからない」と言えないので、ネットで仕入れたうろ覚えの知識で「できる」と判断して「了解しました。それでは詳しく教えてください」と言ってきます。

これに真面目に付き合うと大変です。

  • 必要な手順を素人(=AWS上で本格的な情報システムを運用したことがない)に事細かに説明するのは大変
  • 常識(エンジニアなら当たり前の暗黙知)が説明から欠落して設定ミスにつながるリスクが高い
  • 他社による設定を待つ必要がある。特にDNSは設定が反映されるまで時間を要するので作業が停滞します。

わかってないので、こちらから事細かに指示が必要ですし、間違えて接続不可になってしまったり、面倒くさいことこの上ない多くの時間を浪費する羽目になります。弊社は完全成功報酬制でちいプラを提供しているので、こういった不毛な時間は直接損害につながります。ちなみにこれらの作業は弊社管理下にあれば5分で正確に実施できるような作業です。

それが「知ったかぶりするWeb制作会社」が間に入ると2週間たっても終わらずにひたすらQ&Aするような事態に陥ります。←事実です。

技術的な知見・用語が必要なやりとりで弊社とお客様の間にはいると悲惨です。全く話が通じません。いたづらに時間を消耗するだけです。

さらに面倒くさいのが、お客さんの手前「何かアピールしなければ」と考えるのでしょう。重箱の隅をつつくようにデザインや文言の修正を提案してきたりします。(後述するようにこういった些末なことは地域OTAの成果とはまったく関係がありません)

整理すると、自分たちの守備範囲をわきまえて相談してきてくれるWeb制作会社さんとは協業できます。実際、ちいプラのレスポンシブWebデザインを作成してくれたのは「TOP」さんというWeb制作会社です。さらにWebサイト制作と同時に軽いフットワークで地域OTAへの参画・導入を強力にサポートして流通額を大幅に増やしているスーパーWeb制作会社様もあります。

ところが、上述したような

  • お客様が抱いている「IT詳しい人」というイメージを崩したくない
  • お客様との直接のやりとりは自分たちだけにしたい
  • お客様に無知のままでいて欲しい。自分たちの仕事がなくなるのでできる限り自分たちでやりたい。
    • ただしシステムのことはわからないので詳しく教えてほしい

というように、お客様の不利益を顧みず、自分たちの専門分野を超えて無駄に介在・介入しようとして、かつシステム会社のノウハウをただで教えてもらおうとする利己的なWeb制作会社様は困ります。こういった姿勢のWeb制作会社には、ちいプラご提供はお断りしています。

クライアントにお願いしたいこと/餅は餅屋(を信じましょう)

上述したようにWeb制作会社と情報システム会社がカバーしている範囲は全く違います。ちいプラのような複雑な予約システムは「Web制作会社」様の知識・スキルはカバーしていません。Web制作会社様は「システム」に関しては、クライアントのみなさまと同様に素人です。

登録するコンテンツについてWeb制作会社に相談するのは構いませんが、システムに関しては上述したようなケース(しったかぶり、安請け合い、無駄に介入)に陥ることがありますのでご注意ください。

餅は餅屋です。それぞれの会社が強みとする部分を見極めて、適材適所に資源を投入して、成果を最大化してください。

余談/予約サイトのデザインってどれくらい大切なの?

Web制作会社様の強みの1つは、見た目が洗練された「美しい・カッコいい」コンテンツを制作できることです。この「美しい・カッコいい」コンテンツはどれくらい重要なのでしょうか?

率直にいって、デザインの見た目と予約サイトの成果の因果関係はほぼゼロだと思います。

もちろん、以下のようなサイトは困ります。

  • 操作がわかりづらい
  • レスポンシブ表示されない(スマホで使えない)
  • 無駄な導線が多い
  • 必要な情報が掲載されていない

こういったことを含めた「デザイン」であれば、それはとても重要です。

ただ、しばしばWeb制作会社がこだわる「美しい」「洗練されている」「格好いい」といった美的な要素に関しては違います。率直にいって成果とまったく関係ありません。

例えば、日本でもっとも予約がとりづらい宿泊施設と言われる乳頭温泉郷(秋田県)にある「鶴の湯」さんのホームページを見てください。(HTTPS対応していないのでリンク設置していません。検索してください)

お世辞にも、Web制作会社やデザイナーさんの美的感覚では「素晴らしい」とはいえないはずです。ところがその人気は半端ではありません。

国内の二強OTAである「楽天トラベル」「じゃらんnet」のデザインは洗練されているでしょうか?そうではないですよね。その印象は10年以上変わっていません。

要するに「美しいかどうか」は、予約サイトの成果とは関係ないのです。予約サイトは品評会に出すものではありません。

そもそも「見た目」で成果が出せるのであれば、こんな簡単な話はありません。

地域OTAの成果は、運営側の地道な創意工夫・試行錯誤の積み重ねでしか得られません。そして地道な努力が一番模倣されづらいので真の差別化につながるのです。

クライアント様は往々にして勘違いしがちなので、このあたりもご留意ください。

まとめ

弊社が取引を避けている業種の会社さんがあります。一番警戒しているのは、Web制作会社さんです。

その理由を弊社のようなシステム開発会社とWeb制作会社の違いから説明しました。

システム開発会社はサーバーやネットワーク、アプリケーション全体の管理を行い、Web制作会社はWordPressなどの既成プラットフォームを使用してコンテンツ登録を主に行います。Web制作会社が予約システムや決済システムのような複雑なシステムの運用に影響力を持とうとすると往々にして問題が発生します。

さらに、しばしばWeb制作会社がこだわる「美しさ」と地域OTAサイトの成否は一切関係がありません。

導入を検討しているお客様は、「システム開発会社とWeb制作会社の違い」と「Web制作会社が陥りやすい落とし穴」を理解することが重要です。

餅は餅屋です。頼る先を間違えないようにご留意ください。

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