地域づくり法人が運営する「物販サイト」 のあるべき姿とは?

本記事では、「地域全体の活性化・ブランディングを担う組織」(観光協会、物産協会、DMO、地域商社など、以降では「地域づくり法人」と呼称)が運営する「物販サイト/ECサイト」のあるべき姿について検討してみました。

地域づくり法人が運営する物販サイトが直面する課題・失敗事例

競合と差別化できない

2023年現在、ネット通販は「当たり前」のビジネスモデルとなっています。いわゆる「レッドオーシャン」です。以下のような強力な競合があります。

  • 楽天市場・・・Amazonと並ぶ巨大物販サイト。強力なポイント経済圏を持つ
  • Amazon ・・・巨大物販サイト。マーケットプレイスや、FCA(商品管理・発送代行)サービスもある
  • メルカリ・・・手軽に出品できる。送料優遇がある
  • 食べチョク・・・生産者から直接購入できる
  • ポケマル(ポケットマルシェ)

さらに無料で自社ECサイトを構築できるサービス(例.Base)もあります。

このように有力な競合サイトがひしめく中で、物販に知見もなく、資金もなく、ポイント経済圏も持たず、物流最適化機能もなく、生産者でもない「地域づくり法人」が物販サイトを立ち上げても、シェアを獲得(=お客様に選択してもらう)するのは至難の業です。

運営が大変

ネット通販を買い手としてだけ利用していると気づきにくいのですが、ネット通販は「売る」のも大変ですが、付随して発生する「決済業務」「発送業務」も大変です。大きな労力・コストを要します。これらを考慮せずに立ち上げると以下のよう課題に直面します。

  • 決済処理で現金振り込みに対応してしまう・・・入金確認が大変です。入金されない場合の督促、再チェックが猥雑です。
  • 電話やFAX注文も受け付けてしまう・・・デジタルを使えない高齢者等に配慮として電話やFAX注文にも対応します。アナログ作業が発生して膨大な労力が必要となります。意思疎通の失敗。販売後の顧客との継続的な関係構築も困難です。
  • 発送業務への対応が大変・・・出品者に納品を依頼して、商品を受け取って、梱包して、発送伝票を貼って渡すという作業は極めて猥雑です。

顧客にとって魅力が少ない(割高、品揃えが少ない、出品者ごとに送料が必要になる)

前述したように、オペレーションの大変さに気づいた「地域づくり法人」は、その一連の業務を出品者に丸投げします。

すると、出品者は業務負担が増えるので、価格に転嫁したり、積極的に販売しなくなります。

また、このやり方(=運営法人は在庫をもたない。出品者ごとに発送)だと出品者ごとに送料が加算されます。大手サイトは配送業者からボリュームディスカウントをうけているので価格に転嫁(もしくは加算)される送料も割高となります。これによりお客様の購買意欲はしぼみます。

冒頭に記載したように「自社ECサイト」を所有している事業者も少なくないので、出品してもらうだけでも一苦労です。「地域のために」と応じてくれた出品者でも「売れない」「追加の手間(契約や精算)が面倒」で積極的に販売してくれなくなります。割高な価格を設定して自社サイトに誘導しようとしたり、撤退してしまう出品者が出てくるのも時間の問題です。

かくして開店休業状態に陥ってしまいます。

「物販」とは何か?

違う観点として地域OTA(宿泊予約)と比較してみます。物販は「モノが動く(物流を伴う)」「入金確認(決済)」が必要というのが地域OTA(宿泊・アクティビティの予約サイト)と根本的に異なります。

モノを動く(物流)・・・商品集荷、梱包、出荷伝票、荷渡しが必要。さらに配送してくれる業者さんに手数料も支払う必要がある。

入金確認(決済)・・・消込、金額違い、督促、キャンセル。こういった業務を省力化・代行してくれるサービスを使うと「手数料」が発生する。

大手ショッピングモールや著名なカートはこの「物流」と「決済」に莫大な投資をして、顧客や出展者の利便性を高めたり、料金を安価にしています。

資金や規模に劣る地域の物販サイトは、このいずれの武器も持てません。お客様にとっても、出品者にとっても割高になります。

さすがにそれでは「地域のためにという理念はわかるけど・・・」となるのが当然です。

地域物販と地域OTAの決定的な違い、地域OTAが大手OTAに対抗できる理由、大手OTAにとっての不都合な真実

宿泊・アクティビティの予約は、物販と異なり「物流」「入金確認」が不要です。お客様のほうが事業者のところに足を運んでくれるからです。大手OTAがその強み(資金力・規模)を活用できないのです。大手OTAができるのは「キャンペーンでお得感」をお客様に提供して、それによって「賑わい感」(=このチャネルは外せないという錯覚)を事業者に演出するだけです。(たとえば、じゃらんnetは閑散期の6月に必ず期間限定ポイントを発行します。すると当然お客様はじゃらんで予約します。宿からすると「じゃらん凄ぇーー。集客力ある。」となりますが、単に「カネ」で釣っているだけです。そのポイント原資も、元をたどれば宿自身が負担しているのです。「錯覚」「優良誤認」と言えまます)

むしろ、大手OTAはその規模が弱みになっています。全国の情報を扱っているので地域の良さをまったく訴求できないからです。

さらに、大手OTAを利用している人は、地域や宿が求めている旅人像ともずれています。地域や宿が受入れたいのは、その地域や歴史・文化・風土・取り組み、宿のこだわり・おもてなしの哲学に共感してくれる人です。「安い」ことが決定的に重要な「ポイント・モンスター」ではありません。(もちろん割高でも良いとは言っていません。同等以上である必要があります)

これは理念や理屈ではなく実証済です。大手OTAサイトに勝つのは難しくありません。

売れない物販サイトが「地域づくり法人」にもたらす深刻な問題

地域づくり法人が運営する物販サイトが「売れない」場合でも出品者の実害は大きくありません。商品を「売る」のは実店舗でもネット通販サイトでも簡単でないことは先刻承知ですし、(固定費がかからなければ)販路が多いことのマイナスはありませんので問題はないのです。

ただし「地域づくり法人」が運営する通販サイトが「売れない」事は、別の深刻な問題を引き起こします。

それは、地域づくり法人が掲げるビジョンや取り組みに「懐疑的・批判的な口コミが広がる。非協力的になる」ことです。特に小さな自治体になればなるほど「口コミ」力は強烈です。こうなってくると他の事業にも悪影響です。法人そのものの存続が難しくなってしまうかもしれません。

したがって、物販サイトを立ち上げる以上は絶対に成果を残す必要があります。

ゴマ

地域づくり法人が運営する通販サイトが売れないと「地域づくり法人の全ての取り組み否定されるおそれ」があるので要注意ニャ。

それでは、無数の競合サイトがしのぎを削るマーケットに後発で参入した素人集団である地域づくり法人のECサイトが「売る」ことはできるのでしょうか?できるとすればどうすればよいでしょうか?

「地域づくり法人」しか創出できない価値・強みとは?

大手の通販サイトや各生産者が自社サイトでやっていることを踏襲・模倣しても勝負になりません。競合サイトや各生産者の自社サイトでは真似できない独自の価値を「お客様」にも「出品者」にも提供する必要があります。

「地域づくり法人」の強みとは?

「地域づくり法人」の強みは何でしょうか?それは地域づくり法人のミッションが「地域全体」「地域横断」的な賑わいづくりであることそのものです。地域横断的な商品を企画できます。そして「物販事業」単体で収支をプラスにするのでなく「地域全体」で収支をプラスにすればその役割を果たせます。このように考えることで突破口が見えてきます。

ここで「地域全体の収支」とは何でしょうか?それは以下のようなものです。

  • 地域のブランド(好ましい知名度)の向上
  • 関係人口や移住定住人口の増加
  • 観光関連事業者(宿泊施設、アクティビティ事業者、飲食店、生産者)の収益増
  • 税収増・・・観光関連事業者の利益の増加、ふるさと納税額の増加
  • その他・・・(情報発信を通じた)繁忙期の臨時雇用支援、人材の雇用・育成
ゴマ

地域づくり法人には、個々の生産者や大手通販サイトには真似できない強みがあるんだニャ

ソリューション

具体的な案に入ります。地域組織が行うべき「物販サイト」事業は、以下のような形であるべきではないでしょうか?商品を売ることと同等かそれ以上に前後の取り組みが重要です。

  1. 全体最適の考え方をもとにビジョンを策定する。KPIを設定する。説明資料を作成する
  2. ステークホルダーと認識を共有して、繰り返しリマインドする仕組み・体制の構築
    • ステークホルダーの洗い出し・・・出品者、自治体関係者(首長、役場)、議員、観光関連事業者(宿泊施設、アクティビティ事業者、飲食店、交通ジ事業者)、住民
    • 対話の積み重ね、キックオフイベント、記事執筆、月次レポーティング、年次総会
  3. 競争優位を作るための資金調達・・・自治体予算、ステークホルダーからの会費
  4. 商品企画・販売・発送・・・具体的には後述
  5. 顧客とのリレーションシップを育む・・・宣伝・売り込みでなく、好きになってもらう発信
  6. 顧客リストを様々な取り組みに応用する ※サイトの会員登録時に個人情報の用途・提供先について承諾を得ておく
    • 観光
    • 移住・定住促進
    • 求人支援・・・繁忙期の宿泊施設の臨時スタッフ雇用(「おてつたび」的な)
    • ふるさと納税のご案内

商品企画・販売方法・オペレーションの最適化

商品企画

お客様い「お得感(商品本体・割引券・ポイント等)、特別感(数量、期間限定、ここだけ)、共感」を感じてもらう必要があります。

地域づくり法人の強みは「地域横断」的なミッションです。地域内の生産者のイチオシ商品を集めた「パッケージ商品」を企画します。

まずは、最も売れるだろうと思われる価格帯と商品構成を決定します(標準パッケージ)。この標準パッケージの上と下の価格帯の商品構成を用意します。(これらは若干割高感を感じるように設計します。これによって標準パッケージにお得感を演出できます)

常時発売でなく期間限定で販売します。そして商品の発送日は1日だけにすることで発送業務を効率化します。用途として「贈答」(中元・歳暮)を意識します。こうすることで町内の事業者もお客様になってくれます。

商品の背景にある「物語」を説明文で表現します。個々の生産者の顔やこだわり、原料の地域性・特長が見えるものにします。予約サイト(宿泊、アクティビティ)利用者向けの販売であれば、「現地での旅(タビ)」の記憶が思い出されるような語句を選定します。賑わい感(お客様の声)の演出も重要です。特典として現地でのアクティビティ利用券・割引券や予約サイトでの期間限定ポイントの提供もご検討ください。「10倍」などとできると購買意欲を喚起できます。

【商品仕入れ】商品は受注後の一括注文とします。販促、顧客対応、発送業務を「地域づくり法人」側が担当すること代わりに商品価格を割引してもらいます。また「期間限定の特別キャンペーン」とすることを説明して「出品者の自社サイトより若干安い価格帯で販売」することに同意してもらいます。

【送料】運送会社と価格交渉します(まとめて納品することによる値引き)。

ネット・クレカを使えない高齢者対応の考慮事項

「クレジットカード決済のみ、ネット注文のみ」とした場合、ネット通販利用経験のない層(特に比較的富裕な高齢者層)の需要を取り込むことができなくなります。このため、この層に購入していただこうとした場合、電話注文・FAX注文による受付を可能とする必要があります。

ただし、多くの問題が発生しますので、慎重に検討する必要があります。限られた人的資源で運営している場合は「対応しない」ことが好ましいと思われます。

  • オペレーション・コストが非常に大きくなる
    • スタッフが注文情報をシステムに登録する必要がある
    • 情報の聞き取り時、システムへの登録時に間違いが発生する可能性がある。
    • 情報に不備があった場合、電話して確認する必要がある。不在や留守電の場合、再コールする必要がある。漏れるとトラブルになる
    • 納期遅延等などで連絡が必要な時、個別に電話する必要がある。
  • 長期的な関係維持・構築が困難
    • コンタクト手段が「紙」になってしまうので、情報のレイアウト、印刷、封入れ、投函といった手間のかかるアナログ作業が必要になります。
    • 情報発信に対する反応を測定することができないので、科学的な仮説検証、施策の改善が実施できません。(メールマーケティングの場合は、開封率やリンククリックで測定・可視化できます)

販売方法

  • 顧客からの問い合わせ対応・・・誰が責任を持つ
  • 決済方法は?・・・【推奨】クレカのみ。銀行振込を可とした場合に、誰がどうやって入金確認するのか?督促はいつ?誰が?文言は?キャンセル扱い。
  • 注文受付方法は?・・・【推奨】ネット注文のみ。電話注文やFAX注文を可とするか?情報不備があった場合の対応は?注文の管理方法は?在庫減らしは誰が?
  • 常に販売する?・・・【推奨】期間限定販売。 常時販売すると低頻度のオペレーション業務が常に発生するので非効率です。

これらをまとめると以下のような表となります。

#一般的なネット通販地域づくり法人が行うべきネット通販
販売タイミング常時季節限定(春夏秋冬、中元・歳暮、確定申告)
※四半期ごとの「定期便」という考え方も
発送タイミング随時特定日
発送者各生産者・販売者地域組織
※地域組織が指定する場所に生産者が納品する
※納品・梱包・荷渡し・発送完了手続きを集中的に実施することで業務効率化
※まとめて荷渡しすることで送料節約
※また販促時に自治体のチラシやDMを同梱する
販売商品単品パッケージ
※各生産者いちおし商品のパッケージ
※保管温度帯で集約した「まとめ商品」
送料各事業者が設定自治体補助により送料無料
価格設定各事業者が設定「最安値保証」
バラバラに買うより割安に設定する(送料込)
「定期便」を選択してくれたお客様にはさらに優遇
決済カード、コンビニ、銀行カードのみ
※銀行振り込みやコンビニ払いは、管理コストが大きいので避ける
(入金確認・督促・キャンセル負担が)
電話注文、FAX注文可能要検討
※継続的な関係構築が困難である可能性(手紙・郵送でしか接点を持てない)
※受け付ける場合は料金を高く設定する
メルマガ購読任意必須とする
※特典として「送料無料」や「地域ポイント付与」
口コミ投稿任意任意だが特典を用意して強く促す

上述した形で販売することで、競合サイトとの差別化をはかれます。全ての関係者が恩恵をうけることができます。

お客様・・・各店舗で買井廻するより楽。お得に商品を購入できる。

出店者・・・収益増、地域づくり法人が販売促進、顧客対応、発送業務を担ってくれるので負担が少ない

地域づくり法人・・・仕入れリスクがない。決済自動化や業務集中化により高効率なオペレーション獲得。顧客リストの獲得。地域内の評価が高まる

観光関係者・・・地域イメージ向上による恩恵。潜在的顧客の獲得

自治体・・・関係人口増、移住定住人口増、税収増

必要な物販システムについて

上述したような販売方法を行うECサイトに必要な機能は、どのようなものでしょうか?一言でいうと「シンプル」です。一般的なECサイトにある複雑な機能は必要がありません。宿泊やアクティビティの予約サイトと物販サイトは、データの持ち方や機能が異なっているため同一システムで扱っているものは存在しません。が、本記事で述べたような機能であれば十分に同一システム上に実装することが可能です。

ちいプラでは、上述した販売方法を支援するための物販機能を実装するように目下取り組み中です。

予約システムと物販システムの違い

  • 購買方法・・・物販システムは複数商品をカートにいれられる・保管しておける
  • 在庫管理・・・物販システムの在庫は1商品につき1つ。予約システムは日毎に異なる。
  • 料金設定・・・予約システムの料金設定は複雑(繁閑に応じて変動、子供幼児料金)
  • キャンセルポリシー・・・発送前であればキャンセル料金は不要であることが多い。予約システムの場合は利用日前のキャンセルは有料だり日数により料率が異なる
  • カード決済のタイミング・・・物販システムは即時決済、予約システムは仮売上

ちいプラも、この方向に進化していくニャ。頑張るニャ

まとめ/ちいプラの進化の方向について

本記事では、弊社が考える「地域づくり法人」が運営する「ネット通販」のあるべき姿を記載しました。もちろん、地域の歴史、ビジョン、これまでの経緯、地域づくり法人の位置づけ・人的リソース、事業者との関係性など、いろいろな要素で最適階は変わってくると思いますが何かしら参考になれば幸いです。