FAQ/地域OTA立ち上げ後の集客が不安です(成功要件と先行地域の実績)
ちいプラ(地域旅行商品販売プラットフォーム)は、地域OTA(地域型OTA、地域版OTA、観光DX)を実現するためのワンストップソリューションです。オンラインでの宿泊予約とアクティビティ予約とその管理に必要な機能を網羅しています。地域の情報発信、予約、決済、データ利活用まで一気通貫にサポートします。
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はじめに
導入検討している組織さま(自治体、地域DMO、観光協会等)からの質問に回答していくシリーズです。第一弾は以下の質問に対して弊社の見解を述べました。
「大手OTAは既存顧客を多く抱えており、地域OTAのサービス構築後の利用者が確保(増やしていくことが)できるのかわからない。」
さらに、弊社が考える地域OTAの成功要件の肝や、地域OTA運営で先行する地域の業績推移も掲載しました。参考になれば幸いです。
結論
最初に結論です。この質問に対する回答は極めてシンプルです。
「(他の予約サイト~大手OTAや自社サイト~と比較して)選ばれる理由があれば集客できます。なければ、集客できません。」
残念ながら「システムを導入しただけ」では集客できません。選ばれる理由が必要です。以降では「選ばれる理由」について深掘りしていきます。
選ばれる理由
選ばれる理由として考えられるのは何でしょうか?以下のようなものが考えられます。それぞれについて考察してみます。
- (経済的に)お得であること/安いこと
- 広告
- 広告以外のPR活動
- 地域OTAサイトにしかない「何か」があること
- ストーリー/地域・社会・地球をよくすることに貢献できる物語
(その1)お得であること/安いこと
まず真っ先に考えられるのが「お得」であることです。ネット利用にたけたお客様は「自社サイト」「大手予約サイト」を比較して最も「お得」と感じられるサイトで予約を行います。
この「お得」は、プランそのものの料金に加えて、付与されるポイントやクーポンも含めて総合的に判断されます。
この「お得」の効果はてきめんです。たとえば南三陸町(宮城県)では、コロナ禍における事業者支援として宿泊施設を支援(1人一泊2,000円補助)することとなりました。そして、この助成金を利用できるのは地域OTAサイトである「みなたび」のみ。としました。この結果、お客様の予約が殺到して計画より前倒しで予算(3,000万円)を消化するほどの人気でした。また手数料が地域内で循環することで補助金の経済波及効果がより大きくなる効果もありました。
「お得」のデメリット
このように「(他より)お得」であれば集客することは容易です。ただ、これは本当によいことでしょうか?また持続可能でしょうか?答えはNoです。
「お得」を判断基準の第一とするお客様は、以下の理由で長期的に良好な関係を構築することは困難だからです。こういう方は、一般的に「不満をいだきやすくささいなことで理不尽・辛辣な口コミを投稿」する傾向があります。また、その地域に愛着があるわけではないので繰り返し利用していただくことも期待できません。
また、「お得」にするために「税金を投入」したり「利益を減らす」ことは持続的ではありません。そもそも資本力のある大手企業と競うことはできません。
以上より「お得感をだす」という取り組みは好ましいものではありません。むしろ後述するように「独自性」「共感できるストーリー」を用意することで高付加価値化する必要があります。もちろん「自治体による(期間限定・特別の)事業者支援」であったり「立ち上げ時に認知度を高める」ように目的が明確で期間限定であれば問題はありません。
(その2)広告
大手OTAがよく利用しているのがリスティング広告です。この支出は「地域OTA」サイトでは必要ありません。なぜならば地域名やその地域の宿泊施設名で検索すれば上位に表示されるからです。広告費は不要です。
【備考】新規に立ち上げた地域OTAサイトが上位に表示されるようになるまで3~6ヶ月を要します。すでに情報が集約されたポータルサイトから地域OTAサイトにリンク設置すれば、取りこぼしはありません。
(その3)広告以外のPR活動
既存の取り組みの中でほとんど追加コストをかけずに強化することができます。たとえば、自治体は多くの外部向けイベント(移住促進など)に参加しています。この時に制作するパンフレットやチラシの中で、地域OTAサイトや出展事業者を紹介することができます。(地域OTAサイトがない場合は、自治体として個々の事業者に肩入れすることはできないので、このような取り組みができません。)
また、首長と一緒に記者会見を行うと、多くのメディア(特にご当地や周辺地域)が取材して記事にしてくれます。アクティビティは周辺地域から利用されることが多いので効果的です。これは地域横断的な取り組みに欠かせない「住民の理解・支持を得る」ための手段としても有効です。
(その4)地域OTAサイトにしかない「何か」があること
「地域OTAサイトにしかない何か」(換言すると大手OTAでは真似できない何か)を「創造」することが運営母体となる地域DMOや観光協会に求められる役割です。地域の魅力をあらためて吟味します。また、単独の事業者では実現が困難な地域横断的な内容であることも重要です。(単体の事業者でもできる企画の場合、事業者と競合してしまう可能性があります)
具体的には以下のようなものが考えられます。
- 大手OTAでは販売されていない独自のアクティビティ
- 地域住民とのふれあいを伴うもの・・・まち探索アクティビティ(地域住民と写真をとるとポイント加算)、地域住民と行うBBQ
- (特に子供の)学びになるもの・・・化石発掘、震災語り部、地域材を使ったスプーンづくり
- ご当地スタンプラリー・・・名所や観光施設を回りクイズに答える。地域の良さを自然と理解できる。クリアしたら地域内飲食店で利用できるクーポンやポイント付与。完了証
- セットプラン・・・宿泊とアクティビティやイベント(例えば夏祭り)のセット販売
なぜ「地域住民とのふれあいを伴うもの」が必要?
ある人が、繰り返し訪れる場所には、必ずと言っていいほど「会いたい人」がいるからです。そして自分の住む地域に貢献したい住民や事業者も必ずいます。旅行者とそのような地域の住民・事業者が「仲良くなれる」企画が求められます。
(その5)ストーリー/地域・社会・地球をよくすることに貢献できる物語
今後、極めて重要になっていくと思われます。世界的にはたとえば、カナダ観光局の取り組み例が参考になります。
旅行商品の「高付加価値化」への5つポイント、カナダ観光局が実践する取り組みと戦略、その効果とは? -トラベルボイスLIVEレポート
この記事には以下のような記載があります。
「ツアーによる観光収入が、町の経済やシロクマの保護活動を支えていることを知ると、お客様は高価格でも満足し、納得できる」
「ツアー代金が高額である理由を明確に記載する。差別化された特別な体験と、そこから得られる価値を具体的に伝えることが重要。なぜこのツアーが特別なのかがしっかりわかり、説得力がある」
このような「具体的かつ定量的」に説明されるストーリー(=地域OTAを利用する理由)が確立されていないと、旅行者は、2回目以降は直接事業者とやりとりして地域サイトを利用しなくなってしまいます。こうなると「地域の知名度・イメージを向上させる活動に持続性を持たせるための独自財源」が失われてしまいます。
そして、このようなストーリーに共感してくれる人こそが、中長期にWinーWinの関係を育むことのできる特別なお客様です。地域OTAのKPIとして必ず含めたい指標です。
ストーリーの例
- 地域OTAサイトご利用いただくことで、地元出身の若者の雇用原資とできます。
- 地域OTAサイトご利用代金の一部は、バリアフリー活動に回されて、地域の高齢者や障がい者がくらしやすい
- 地域OTAサイトご利用代金の一部は、自治体が運営するキャンプ場を整備して、安価に快適にご利用いただくことが可能になります
- 地域OTAサイトご利用代金の一部は、子育て施設の設備改修に利用された少子化対策に活用されます。
- その他、「二酸化炭素排出量を減らすことができます」などETC…
地域OTAの成功要件とKPI
成功要件
地域OTAを実践するにあたって「ちいプラ」のようなICTツール、情報システムは必須です。ただしそれだけでは成果を出すには十分ではありません。様々な要素が必要となります。
その中で、最も重要な要素は、地域OTAを運営する組織(地域DMOや観光協会)のトップの力量と本気度です。
地域OTA運営組織のトップには以下の資質が求められます。
- ステークホルダーとの調整力・巻き込み力
- 首長と率直に意見交換できる間柄であること・・・首長からコミットを引き出せること
- 地域内の事業者から一目置かれるような存在であること
- インターネットの理解
- スマホ、SNS、ネット通販サイト、予約サイトを利用していること
- ビジネス経験が豊富であること
- 特に旅館経営のように、一般消費者向けのサービスを提供していて、そのビジネスの販売力が地域の知名度・イメージにある程度依存していることが好ましい
- フェアであること
- 自社だけでなく地域全体の発展を優先できる人
これらの資質が1つでも欠けていれば、地域OTAを軌道にのせるのは難しいでしょう。逆に言うと地域OTAで成果を出している地域には、必ずこのような「中心人物」がいます。
地域OTAは、様々な立場・意見を持つステークホルダーが関わる一大プロジェクトです。成果が見えてくるまで3年は必要です。多くのステークホルダが同じビジョンや評価基準を共有して、目先の自社利益だけでなく、地域全体の利益を考えて(それが長期的に自社の利益につながると信じて)協力する必要があります。
このようなプロジェクトを担うには上述したような能力をもつ「中心人物」が欠かせません。
KPI/重要業績指標
地域OTAという一大プロジェクトには様々な立場・意見を持つ多くのステークホルダーが関わります。これらのステークホルダーが対話する際に土台となる共通認識が必要です。この共通認識は、「ビジョン」「課題」や「進捗を客観的はかる指標=KPI」などから構成されます。以下では、KPIの例を記載しました。
これらの指標を時系列で集計して、グラフなど可視化することでステークホルダーに対して意味のある報告や対話が可能となります。
カテゴリ | 指標 | データ取得方法 |
地域OTAサイトに関する指標 | 地域OTAサイト内の利用件数・流通額 x 全体・地域別・年代別等 | 地域OTAサイト |
地域OTAサイトに関する指標 | 参画事業者数 | 地域OTAサイト |
地域OTAサイトに関する指標 | 会員数(新規、累積、前年比) | 地域OTAサイト |
運営組織に関する指標/企画力 | 新規造成プラン数 | 地域OTAサイト |
運営組織に関する指標/人材面 | 運営組織の人員数(前年比) | 人事データ |
運営組織に関する指標/人材面 | 運営組織の職員の給与総額(前年比) | 人事データ |
地域ブランドに関する指標 | 好意的な口コミ数(新規、累積) | 地域OTAサイト |
地域ブランドに関する指標 | 地域の認知度 | 主要マーケット(例えば首都圏)でのWebアンケート |
地域ブランドに関する指標 | 地域の好意的イメージ | 主要マーケット(例えば首都圏)でのアンケート結果 |
地域ブランドに関する指標 | メルマガ開封率の推移 | CRM |
データ利活用の成熟度に関する指標 | 様々な観点の優良顧客(上位n%や)を即時に取得できる | 地域OTAサイト |
データ利活用の成熟度に関する指標 | 繁閑にあわせた価格設定を行うようになった宿泊施設の数 | 宿へのインタビュー ※料金ランク/料金カレンダーや自動プライシング機能がある場合は、OTAシステムの利用状況から把握できる |
データ利活用の成熟度に関する指標 | データを可視化してレポートを作成できる | 作成したレポート |
付録/先行地域での実績
宮城県南三陸町の場合
南三陸町観光協会が運営する「みなたび」は、2016年3月にオープンしました。当初は伸び悩みましたが、その間も、運営母体である観光協会のトップが粘り強くそのビジョンや重要性を首長・行政、地域事業者に訴えて協力を取り付けたことにより事業継続。若いスタッフに大胆に権限移譲して協会の職員が町内事業者と協力してプランを企画・造成・販売できる(=自走)まで成長しました。順調に業績を伸ばしている矢先、コロナ禍に襲われましたが、町からの地域事業者支援のプラットフォームとして活用されたことで、大きく取り扱い額を伸ばしました。
岐阜県恵那市の場合
地域DMO「ジバスクラム恵那」が運営する「Aeru STAY」は、2021年8月に開設。本格運用を開始した2022年から三セクが運営する宿泊施設の予約受付の多くを集約。地域外に流出していた莫大な手数料を地域内で循環させることに初年度から成功しています。ジバスクラム恵那のトップには、大手航空会社でドル箱路線のマーケティングを担当して海外支店長をつとめると言った経歴を持ちます。元行政職員で産業振興・観光行政に長けた首長や、地域の事業者と粘り強く対話してそのビジョンの実現に邁進しています。
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